
原点回帰
Share
木製サーフボードが再び注目を集める理由

サーフィンの歴史を辿ると、波乗りのルーツは聖書よりも古いとも言われている。紀元前3000年頃、ペルーの漁師たちが木製の水上クラフトを使い、漁の帰りに波を利用して岸へ戻っていたという記録がある。彼らにとっては単なる移動手段だったかもしれないが、サーフィンの原点ともいえる革新性がそこにあった。
波を乗りこなす文化を発展させたのは、タヒチやハワイのポリネシア人。彼らは神聖な木を使い、手作業でサーフボードを作っていた。とはいえ、1778年にキャプテン・クックがハワイに上陸するまで、サーフィンという概念は西洋社会にはほとんど知られていなかった。
1960年代のカリフォルニアがサーフィン発祥の地だと信じたくなるのも無理はない。しかし、実際には何千年も前からサーフィン文化は存在していた。そして今、サーフィンの歴史が一周し、新たな局面を迎えている。
最初は木がすべてだった
もちろん、1700年代のハワイのサーファーたちは、プラスチックやフォーム、ファイバーグラスなど持っていなかった。彼らが使えるのは、島に豊富にあった木材のみ。サーフボードのサイズは社会的な地位によって決まり、王族は巨大なオロ(Olo)ボード(長さ約6メートル、重さ90キロ以上)を使用し、一般の人々は長さ12フィートのアライア(Alaia)ボードに乗っていた。どのボードも重く、操作性に乏しかったものの、当時のスタンダードだった。
1900年代初頭になると、伝説のサーファーデューク・カハナモクが現れ、地元の木材や輸入したレッドウッドを使ってオリジナルのボードを作成。これが後のワイキキモデルの原型となり、現代のサーフボードへとつながっていった。
プラスチック時代の到来
時代が進むにつれ、技術革新がサーフボードのデザインを大きく変えていった。第二次世界大戦後、新たな素材としてプラスチック、ポリウレタンフォーム、ファイバーグラスが登場し、サーフィンの進化は一気に加速する。
これらの新素材により、サーフボードはより軽く、より操作性の高いものへと変化し、サーファーたちは今までにないパフォーマンスを発揮できるようになった。ロッカー(反り)、フィン、コンケーブ(ボトムの凹み)の開発により、波の条件やスキルに応じたボードのカスタマイズが可能になり、よりスピード感のあるサーフィンが実現した。
長くて重い木製ボードの時代は終わり、より小型で機能的なデザインへと進化した。
予想できたはずの未来
こうして、サーフィンは進化を続け、サーファーたちはこれまでにないスキルやスタイルを手に入れた。波乗りの技術を磨き、海との一体感を深めることができるようになった。
しかし、良いものが増えすぎると、その影響が現れるのも必然。何十年もの間、プラスチックや石油由来の素材がサーフィン業界を支配し、その影響が問題視されるようになってきた。大量生産と消費の結果、環境への負荷は増大し、破損したボードのほとんどが最終的に埋立地に捨てられている。
サーファーの歴史は、ただのゴミとなって終わるのか?そう考えると少し悲しいが、この現実を受け止めることで、より良い選択をするきっかけになるかもしれない。
確かにPU(ポリウレタン)ボードは優れた性能を持つ。しかし、環境が危機に瀕している今、本当に「パフォーマンスが良いから」という理由だけでこれを正当化できるのだろうか?
良いどこ取り
サーフィン業界は今、大きな転換期を迎えている。過去75年間、ボードデザインの革新が進み、サーファーたちはスキルとスタイルを磨いてきた。だが、サーフボードが環境に悪影響を与えているからといって、過去に戻る必要はない。
プラスチックやフォームの技術を活かしてパフォーマンスを向上させた時代は素晴らしかった。しかし、今こそ違うアプローチを考えるべきタイミング。現代の技術と、サステナブルな木材という伝統的な素材を組み合わせることで、新たなサーフボードの可能性を広げることができる。
サーフボードの歴史は一周し、木製ボードが再び注目を集めている。しかし、今回はただ過去に戻るのではなく、より良い形で進化するチャンスがある。
古くて新しい、新時代のサーフボード。今、その変化の真っ只中にいる。